TERAMOTO くらしとterakoyaコラム

廃棄物処理・リサイクルをIoT導入で促進。その目的と事例とは
2020.10.21 業界コラム

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モノとインターネットを接続する「IoT」が、様々な業界に広まってきています。例えば感染症対策が急がれる昨今では、いわゆる「3密」状態を感知し、換気を促すシステムが開発されています。このように汎用性が高いIoTは、廃棄物処理・リサイクルについても業界躍進の起爆剤になりえるのです。今回はIoTになじみがない人でも理解できるよう、当業界の課題をまとめた後、実際にIoTがどのように問題解決するのか、事例を交えつつ解説します。

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廃棄物処理・リサイクルを巡る課題

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廃棄物処理・リサイクル業界では新たなビジネスモデルの構築が求められています。その背景には、労働力人口の減少に起因する「人手不足」への懸念があります。つまり従来の業務フローではサービスの質を維持、あるいは向上させることは不可能なのです。現在は地球温暖化や天然資源の枯渇、最終処分場の確保・運用コストなどの諸問題の解決が急務ですが、廃棄物処理・リサイクル業界の効率化・高度化をなくしては達成できないでしょう。そしてその足掛かりになると言われるのが冒頭に挙げたIoTの活用なのです。

IoTの導入に当たっては「廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会」が一端を担っており、本協議会いわく以下の分野での活用を想定しているそうです。

1.収集ルート等の効率化
ゴミ収集車が効率的に収集できるようなシステムを作ります。従来はゴミの堆積量に関わらず、全てのゴミ集積所を巡回する必要がありましたが、それにかかるコストを削減する狙いがあります。例えば、各ゴミ箱に堆積量が分かるセンサーを設置し、遠隔でモニタリングするなどの方法があります。

2.仕分け・分解・選別の自動化
廃棄物は中間処理場に運搬された後、分解・分別されます。その際、人の手による選別も行われますが、この工程の自動化を目指します。

3.焼却炉などプラント運転の高度化
これまでは工場長などの経験値に依存した運転管理が行われていましたが、IoT導入によってより高度な保守管理や発電効率化等がなされると期待されています。

廃棄物処理・リサイクルに関わるIoT導入・実証実験の事例

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ここでは廃棄物処理・リサイクルに対して導入あるいは実証実験が行われたIoTの事例を紹介します。上述した課題を直接的、あるいは間接的に解決する可能性を示唆する結果が得られています。

導入・実験例1:スマートゴミ箱でゴミ収集ルートを最適化

■内容
スペインのバルセロナや川崎市ではゴミ回収ボックスにセンサーを付けることで、遠隔地からゴミの堆積量を把握できるシステムを構築しました。これにより収集すべきゴミ箱および最適な巡回ルートをリアルタイムで把握できるようになりました。バルセロナでは排気ガスとコストの削減、走行距離の減少を実現させています。また川崎市では約16%の走行距離短縮に成功しています。

■今後の展望
スマートゴミ箱は沖縄の国際通りやハウステンボスなど様々な場所で実証実験が重ねられています。ハウステンボスではゴミ箱の頻繁な確認作業を省力し、通常の回収時間から68%の負荷削減に成功するなど顕著な結果が出ています。スマートゴミ箱が各地で本格的に導入されてくると、ゴミ収集にかかるコストが削減される可能性があるでしょう。利用シーンはテーマパーク、大型ショッピングモール、オフィスビル、大学キャンパスなど幅広いです。

導入・実験例2:ゴミ焼却炉の完全自動運転

■内容
2018年、国内企業が日本ではじめてゴミ焼却炉の完全自動運転に成功しました。これまでもゴミ焼却炉の自動燃焼制御装置は存在しましたが、投入されるゴミの形状、大きさなどによって燃え方にムラがあったのです。そのため完全な自動化はされておらず、作業員の監視、介入が必要なのが実情でした。この課題を解決すべく新システムが開発され、実証実験にて2週間連続で介入なしの稼働に成功しました。

■今後の展望
安定した燃焼ができればゴミ焼却発電による発電力も増加します。実験ではボイラーから生じる蒸気量も安定していたので、導入後の効率的な発電が期待されています。

導入・実験例3:ベテラン作業員の焼却技術を可視化

■内容
国内大手企業が、ゴミ焼却の運転作業について、経験の浅い作業員でも最適な操作情報が確認できるシステムを開発しました。あらかじめAIにベテラン作業員の運転作業を学習させるので、ゴミの状態に関わらず一定の燃焼状態を維持することができます。

■今後の展望
同企業によると、安定した燃焼と売電収入の増加で運営コストが約5.8%改善される見込みだそうです。また、運転ノウハウを可視化できるので、作業員のスキルアップや人手不足の解消が期待されています。

導入・実験例4:廃棄物の自動判別ロボット

■内容
国内の中間処理工場が、AI搭載の自動判別ロボットを導入しました。元来、廃棄物の選別という細かな作業はロボットには難しいとされており、実際にこのロボットを導入した当初は上手くゴミをつかむことができなかったそうです。しかし、ロボットに設置されたカメラで画像・動画を撮影し、集めたデータをもとにAIが学習を繰り返した結果、現在では精度が高まっています。ちなみに画像・動画情報はインターネットを介しており、世界のどこからでもリアルタイムで監視することができます。いわばIoTとAIの組み合わせで成長するロボットだと言えるでしょう。

■今後の展望
同工場では大幅な人員削減に成功しました。具体的には18人を要していた選別作業が、2人で足りるようになったようです。この工場の様に過酷で手間のかかる作業を自動化できれば、業界全体としても業務効率化が期待できます。また同工場のロボットは現在5センチの大きさのゴミも拾えるようになるなど進化を続けており、更に小さなゴミを拾えるようにチャレンジしています。

導入・実験例5:RFIDの活用で食品廃棄物が減少

■内容
RFIDとは情報が埋め込まれたタグを物品に添付し、個体の識別や管理情報を取得したりすることができるシステムです。役割としてはバーコードに似ていますが、複数のタグを同時に読み取れるなど、より高度なシステムです。このシステムは韓国の江南市にて、食品廃棄物の回収に関する実証実験に活用されました。住民はRFIDカードを携帯し、ゴミ捨ての際にスマートゴミ箱のリーダーにタッチします。そしてその重量に応じて処理料金を支払うというルールでした。結果として食品廃棄物は33%減少したそうです。

■今後の展望
食品廃棄物が減少した一方、スマートゴミ箱を稼働する電力の確保が課題になっています。

導入・実験例6:長野県の資源物回収ボックス

■内容
長野県北部の13市町村に資源物回収ボックスを設置し、古紙、古着、金属類などを回収する実証実験が行われました。
■今後の展望
このシステムではスマートゴミ箱と同様に回収ボックスにはセンサーが取り付けられ、堆積量を遠隔かつリアルタイムで把握できます。収集時間の短縮に伴い、人件費等のコストの削減を期待できるでしょう。

以上が廃棄物処理・リサイクル業界にIoTを導入した事例の一部です。先述したように本業界では人手不足、後継者不足が問題となっていますが、これらを解決する可能性があることを示唆しています。AI、IoTなどの先端技術を取り込むことで、業務の高度化、省人化、無人化、そして新たなビジネスモデルを実現できるでしょう。

2019年度(令和元年度) 廃棄物資源循環学会 春の研究討論会「ICT・IoT・ブロックチェーン(BC)による廃棄物処理・リサイクル高度化の可能性

廃棄物処理・リサイクル業界の未来はIoTに懸かっている

廃棄物処理・リサイクル業界は生活環境の保全や公衆衛生に欠かせない要素です。そのため、本業界が抱える人手不足は深刻な課題だと言えるでしょう。しかしながら、IoTの活用でサービスの質が向上すると期待されています。なぜならばIoTによって廃棄物処理の各プロセスが自動化・高度化するかも知れないからです。実際にIoTが導入された場所では、上述したように一定の成果が出ています。今後の本業界の発展にIoTは必要不可欠な存在だと言えるかもしれません。

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