TERAMOTO くらしとterakoyaコラム

ホテル・旅館が事前に把握すべき外国人宿泊者への災害時の対応
2020.11.25 ホテル全コラム ホテル業務改善 業界コラム

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豪雨や地震、火災など宿泊業において、災害への対応はBCP(事業継続計画)だけでなく、宿泊者の命を守るためにも欠かせません。また、近年増えている外国人宿泊者に対しては、土地勘がなく、言葉の壁があるため特別に配慮する必要があります。そこで今回は、国土交通省九州運輸局が作成した「訪日外国人旅行者の宿泊時における災害時初動対応マニュアル」から、基本的な情報をピックアップしてまとめました。感染症の終息後に生かすためにも、明日から取り組んでみてください。

日本人と外国人の災害に対する反応の違いを知る

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災害時に正しく対応するためには、日本人と外国人の災害に対する意識の差を理解しておく必要があります。特に顕著なのが「地震」に対する反応です。日本人であれば、震度4程度でも動じない人が多いですが、地震がほとんど起きない国からの旅行者は少しの揺れでもホテルのロビーに集まって質問が殺到するケースが多く見られます。団体旅行者が宿泊している場合、パニックが発生してしまうリスクが高まるので、事前に地震に対する正しい告知と注意すべき地域からの宿泊者を理解しておく必要があります。以下で簡単にまとめたので、確認してください。

■地震がほとんど発生しない地域
・イギリス、フランスなどヨーロッパの国々
・東欧、ロシアの大半
・南北アメリカ大陸の中央から西部地域
・オーストラリア(ニュージーランドは地震多発国)

■外国人宿泊者が地震発生時に取る行動(例)
・倒壊、揺れの不安からスタッフに質問し続ける
・地震による断水、停電等を理解できずクレームを入れる
・断続的な余震などで精神的に負荷がかかる
・エレベーターを利用しようとする
・すぐに安全な場所に移動しようとする
・宿泊者の家族や関係者から安否確認の問い合わせが殺到する

以上の国々の旅行者が多い場合、彼らが取る行動をあらかじめ予想し、いざというときのために注力して対応するように備えておくことで、迅速かつ的確に緊急事態に対応できます。次は事前に準備すべき6つのチェックポイントをまとめたので、現在、職場では備えられているか確認してみてください。

■事前対応のチェックポイント
1.外国人対応の指揮・命令系統の確立
・英語、中国語、韓国語で非常時に自主判断して対応できる担当者を複数名選出する。
2.外国人対応できる地域内施設の明確化
・病院や避難所など、非常時に利用できる施設の住所、電話番号をリスト化する。
3.災害時の注意事項の伝達
・災害時の避難場所や注意事項などをフロントで説明するほか、客室に貼り出する。
4.ピクトグラム(図記号)の配置
・異なる言語でも伝わりやすいピクトグラムを効果的な場所に配置する。
5.外国人旅行者のための情報収集先をリスト化
・各国大使館や公共交通機関などの問い合わせ先をリスト化してスタッフに共有する。
6.外国人旅行者対応訓練
・災害発生を想定した避難訓練を実施。1~5の盲点などを発見し、改善につなげる。

いずれも一朝一夕で構築できるものではありません。特に「1」に必要な外国語は、堪能ではなくても良いので、最低限の誘導は可能なレベルまで地道に教育することが重要です。地震や台風などはいつ起こるか分からないので、早めの取り組みが大切です。次からは地震発生時の具体的な対応例を時系列にまとめたので参考にしてください。

1.災害が起こった際の対応

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地震は接客時など、外国人の宿泊客が身近にいる際に発生することも考えられます。その際はまず「慌てずに身の安全を確保する」ことを呼びかけ、頭を保護して丈夫な机の下などの安全地帯に身を隠すように促しましょう。揺れが収まったら、慌てて外に飛び出さないように呼びかけつつ「エスカレーター、エレベーター」などを利用しないように周知します。何よりもパニックを避けるため、宿泊客を落ち着かせることを重視します。

2.災害が起こった際の対応

揺れが収まったら、館内放送などでまずは状況を説明して落ち着かせるほか、避難場所や取るべき行動などを説明します。この際、多言語で呼びかけを録音しておくと非常に便利です。また、停電によって館内放送が使えないことも想定し、拡声器やメガホンなどを備えておきましょう。また、的確に指示を伝えるためにプラカードなどを作成しておくことも大切です。津波の恐れがある地域では、迅速な避難行動が求められることも把握しておきましょう。また、ツアーガイドなど外国人や日本人でも多言語での会話が可能な人物がいればコミュニケーションの協力をお願いする手段もあります。

3.揺れが完全に収束した時の対応

地震が一段落してから、外国人宿泊者を含めた宿泊客全員の安否確認を行います。その際に不安が募った外国人宿泊者から質問を受ける可能性があるので、事前に良くある質問を把握し、落ち着いて回答できるように備えておきましょう。

また、地震の大小問わず、不安を感じた外国人宿泊者は客室に戻るのを拒む可能性があります。その場合、宴会場など広くて安全な場所に誘導して対応してください。そのうえで、外国人対応窓口を設置し、地震に関する質問や出国・移動先までのサポート、情報提供などを行うことを共有しましょう。施設から行政の防災窓口を通じて、各国の領事館からの救助を求めることが重要です。

同時に、建物内を点検して安否不明者の確認と施設内の状態をチェックします。壁の倒壊などの危険がある場合、立ち入り禁止のピクトグラムなどを設置する必要があります。また、エスカレーターやエレベーターは必ず立ち入り禁止にしてください。怪我人がいれば速やかに応急処置を行い、治療が必要な場合は近くに医療救護所などがあるか確認し、随行・搬送します。

施設外の外国人旅行者も受け入れが可能な場合は、積極的な保護が推奨されています。日本人の帰宅困難者も発生すると予想されますが、外国人対応できる施設の使命として外国人旅行者の受け入れに期待されています。

4.帰国支援などの事後対応

災害発生後、外国人宿泊者の多くが気にするのが帰国方法やフライト運航状況、空港までのアクセス状況などです。多くは迅速な移動を希望するため、宿泊施設はあらかじめ交通状況の情報収集先を把握しておくことで、外国人宿泊者の円滑な帰国支援が可能になります。全国対応の情報提供サイトの代表例を紹介します。これらのほかにも都道府県の防災情報サイトなどもあるので、あらかじめリスト化することをおすすめします。

■防災情報サイト
観光庁災害時情報提供ポータルサイト
内閣府防災情報のページ
観光庁災害時情報提供ポータルサイト
日本道路交通情報センター

災害には早めに備えよう

今回は、地震を中心に外国人宿泊者の対応について紹介しました。非常時に外国人宿泊者に対して適切に接することは、日本人の宿泊客の安心にもつながります。観光業、宿泊業のあり方が大きく変わりつつあり、右肩上がりだった外国人旅行者の傾向にも変化がある今だからこそ、まだ実施できていない宿泊施設は非常時の対応について見直す機会かもしれません。今回、参考にした「訪日外国人旅行者の宿泊時における災害時初動マニュアル」には、詳細な情報のほか、ピクトグラムや多言語の例文も記載されています。興味がある人は以下のリンクから確認してみてください。

※出典:国土交通省九州運輸局「訪日外国人旅行者の宿泊時における災害時初動マニュアル」

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