TERAMOTO くらしとterakoyaコラム

災害・感染症などに備える。ホテル経営におけるBCP(事業継続計画)とは
2020.06.04 業界コラム

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ホテルなどの宿泊施設だけでなく、一般企業の経営において官民から注目が高まっているのが「BCP(事業継続計画)」です。自然災害や事故、感染症などの緊急事態に直面した際に被害を最小限にとどめるためのBCPは、経営基盤が強くない中小の宿泊施設においてはとても重要な施策になります。今回はホテルの管理、経営者だけでなく、清掃員やフロントなどの従業員にも知ってほしいBCPの基本的な知識を紹介します。

近年、注目が集まるBCP(事業継続計画)の概要

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先述したようにBCP(事業継続計画)の役割とは、地震・火災・テロ・火災・設備事故・水害・感染症などの緊急事態によって、事業の縮小や休業、廃業を最小限に抑えることです。ホテル経営においては、完全休業を防ぐほか、早期の営業再開、代替となる収益源の確保などが策定例に挙げられます。BCPをあらかじめ策定し、緊急事態に適切に運用することで市場の信頼が得られ、結果的に事業拡大にもつながると考えられているのです。
中小企業庁が定めたBCPの5つの主な策定ポイントを以下でまとめたので確認してください。

■BCP(事業継続計画)のポイント
1.優先して継続・復旧を目指す「中核事業」を明らかにする
2.中核事業の緊急時の「目標復旧時間」を定める
3.緊急時に提供できるサービスのレベルを協議して共有する
4.代替となる事業拠点、生産設備、仕入品などを用意しておく
5.すべての従業員と事業継続についてコミュニケーションを図る

上記の1~5のポイントを踏まえて、まずは「BCPの基本方針」を立案し、「BCPサイクルの運用体制」を確立します。さらに平常時にBCPサイクルを継続的に運用して都度、見直しや改善を行わなければなりません。ホテル経営におけるその一連の流れを具体的に確認していきましょう。

※出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針

BCPの運用サイクルとは

緊急事態時にBCPを正しく行うためには、日常時の運用が重要です。日常で運用すべきBCPサイクルは以下の5つのプロセスから構成されています。

■BCPサイクルの5プロセス
1.自社の事業を理解する
2.BCPの準備、事前対策を検討する
3.BCPを策定する
4.BCP文化を定着させる
5.BCPのテスト、維持、更新を行う

これらのプロセスを日々回していくことが、緊急事態での適切な対応には必要です。BCPの根幹を担う「基本方針」とプロセスを回すための組織づくりのポイントを次で紹介します。

ホテル経営おける BCP(事業継続計画)の基本方針

BCPを策定するにあたり、まず定めなければならないのが「何のためにBCPを策定して日ごろから運用するのか」という点です。一般的にはホテル経営者自身の言葉で明文化されることが多いのですが、緊急事態に事業を継続することが「顧客」、「従業員」、「地域」にとってどう貢献するかを示すケースが多いです。

■BCP策定・運用の目的(なぜ事業を継続を図るのか)
1.顧客にとって
緊急事態時の宿泊客などの安全を確保し、宿泊施設として最低限必要な機能を維持する。
2.従業員にとって
経営を継続して収益を確保することで、従業員の雇用を確保する。
3.地域にとって
観光客の減少に寄与するとともに速やかな観光産業の復興に協力する。

このようなホテルを取り巻く関係者にとって、事業を継続することがどのような好影響を与えるのか想定しましょう。これらの方針に則って具体的なBCPの施策を策定することでホテルの価値そのものの維持・向上につながります。

さらに、中小企業庁では「企業同士で助け合う」、「緊急時であっても商取引のモラルを守る」、「地域を大切にする」、「公的支援制度を活用する」という4点の要点を重視することをすすめています。
また、基本方針も少なくとも毎年1回は更新して見直す必要があります。

ホテル経営おける BCP(事業継続計画)の策定と運用体制

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方針が決まったら、次は具体的なBCPを策定して日常的に運用する社内体制を構築します。BCPの体制は、「策定」、「日常での運用」、「緊急時での運用」の3つのフェーズがあり、それぞれ担当者が異なります。ホテル経営における運用体制の一例を以下で確認しましょう。

■BCPの策定体制
1.責任者
2.サブリーダー

BCPの策定する責任者とサブリーダーを決めます。BCPは経営課題の根幹を担うので、施設を経営する企業の社長(経営者)自らが責任者を務めることが一般的です。次点であるサブリーダーは総支配人のほか、社長室長など経営層に近い人物が担当します。サブリーダーは一人と決められているわけではなく、状況によって複数名になることもあります。また、小規模の家族経営の宿泊施設では、責任者のみ置くケースもあります。

■日常でのBCPの運用推進体制
1.責任者
2.サブリーダー
3.連携する外部企業
4.連携する組合などの社内外の組織
5.BCP運用の対象

次に、日常におけるBCPの運用の体制を構築します。責任者とサブリーダーは、引き続き経営者などが務めます。日常から正しくBCPサイクルを運用するには、旗振り役となるトップの意思表示がとても大切です。特に取引先などの「外部の企業」や商工会議所などの「外部組織」との連携は、きちんと役割分担して活動しなければ曖昧になりがちです。周辺の観光などと密接に関わるホテル経営は、他の産業とは異なり地域や周辺の産業を巻き込まなければ、早期の営業再開や休業の回避は困難です。BCP運用の対象である施設の「全従業員」とともに、外部の協力者にもしっかりとBCPの内容や意義を共有しましょう。

■緊急時におけるBCPの発動体制
1.責任者
2.顧客・協力会社担当サブリーダー
3.事業資源担当サブリーダー
4.財務担当サブリーダー
5.従業員支援担当サブリーダー

災害などの緊急事態が発生した場合の責任者は「総支配人もしくは社長」が適当です。責任者の指示のもと、それぞれの担当部署の役職者がサブリーダーに就任して現場を指揮します。例えば、宿泊客の安全管理などを行う「顧客・協力会社担当サブリーダー」は客室サービス部長が担い、リネンや食材など宿泊施設としての中核事業を行うために必要な資源の確保などが担当の「事業資源サブリーダー」は、バンケット部長が就くケースがあります。また、財務は財務課長や総務部長、帰宅困難者や出勤ができなくなった従業員に対応する「従業員支援担当サブリーダー」は、人事課長などが担当します。
また、緊急時には担当者が怪我や出勤困難になり、動けなくなってしまうケースも想定しなければなりません。そのため、担当者とともにいざというときのための「代行者」も選定しましょう。

管理者・従業員の全員がBCP(事業継続計画)を理解しよう

BCPの運用体制と基本方針について解説しました。BCPの策定は、会社の経営者・全社員だけではなく外部の組織とも協力しなければなりません。一朝一夕で実現するのはとても困難なので、ホテルの経営者や管理者は早めに計画を策定して運用サイクルを回すことが求められています。また、BCPの正しい運用体制の構築にはすべての従業員の協力が欠かせません。客室清掃員やフロントなどの職種を問わず、従業員は働く宿泊施設のBCPの策定有無や緊急事態での対応について理解する必要があるでしょう。

※出典:高知県「旅館ホテル業事業継続計画