TERAMOTO くらしとterakoyaコラム

火災や地震…。ホテル・旅館が備えるべき防災管理と防火管理
2020.10.28 ホテル全コラム ホテル業務改善 業界コラム

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近年、局地的な豪雨や地震など日本の災害の脅威が高まっており、あらゆる業界で「防災管理」が求められる機会が増えています。特に、災害時に宿泊客など多くの人が関わるホテルや旅館などの宿泊施設は、災害を防ぐ施策と災害が発生した際の対応について事前にしっかりと備えておかなければなりません。今回は、施設の管理者だけでなく従業員も知ってくべき国の「防火・防災管理制度」と、代表的な災害である火災・地震が発生したときの対応について紹介します。

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防災管理とは

防災管理とは、火災や事故などを未然に防ぎ、発生時には適切に対応するための取り組みです。国や自治体によって防災・防火管理者制度が設けられており、特定のホテルは必ず講習を受けた「防火・防災管理者」を選任しなければなりません。その詳細を以下で説明します。

国が定める「防火管理者」とは

防火管理者とは、一定の規模の建物に必ず設置しなければならない国家資格取得者です。防火管理者の業務は、防火に関わる事項の管理・予防・消防活動で、火災のほかにも地震や水害などの知識も求められます。防火管理者になる条件に「管理・監督的地位」が含まれているため、ホテルや旅館においてはスタッフに指示できる立場である施設の管理者が担うことが多いです。ホテルの従業員は、まずは自分が働く施設が防火管理者を設置しなければならない「防火対象物」であることを確認してみてください。

■防火管理対象物の条件(甲種)
収容人員30名以上の劇場、飲食店、物品物販店、「旅館」、病院などの不特定の人が出入りする建物など

甲種・丙種合わせて6つの条件のうち、ホテルや旅館の対象は上記の項目で示されています。小規模の旅館でも十分に防火対象物に該当するので、もし職場の防火管理者が分からない場合は、いざというときのために早めに明らかにしておく必要があります。ちなみに防火管理者の具体的な業務は以下になります。

■防火管理者の業務
・消防計画の作成
・消防、火気設備の点検、整備
・避難訓練などの実施 ほか

みなさんの職場では、上記のような取り組みは行われているでしょうか。あいまいな場合は、一度確認してみることをおすすめします。

「防災管理者」も国家資格

防火管理者の主業務が火災の予防・対策が中心なのに対し、防災管理者は地震やその他の災害、テロへの対応を目的としています。防災管理者を選任しなればならない対象の建物は、共同住宅・格納庫・倉庫などを「除く」すべての用途の建築物で、階数と延べ床面積によって異なります。

■防災管理対象物の条件

地階を除く階数 延べ床面積
11階以上 1万平方メートル以上
5~10階 2万平方メートル以上
4階以下 5万平方メートル以上

※延べ床面積1千平方メートル以上の地下街も対象

防火管理者と同様、防災管理を設置しなければならない宿泊施設も少なくないと想定されます。防災管理者の業務は、防災管理に関わる消防計画の作成のほか「防火対象物の防災管理に関わる業務」とされており、防火管理者が必要な防火対象物は防災管理者が防火管理者の業務をあわせて行う必要があるので、防火・防災管理者を兼任するケースは珍しくありません。

※出典:一般財団法人「日本防火・防災協会

ホテル・旅館が行うべき火災の備えと発生時の対応

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ホテルや旅館での火災が発生した場合、初期対応を誤ると多くの犠牲者を出してしまう可能性が高まります。そのため、まずは消防法と建築基準法に準じた建物そのものの構造はもちろん、事前に最低限必要な対応事項を明確化し、「限界時間」までにそれらを達成できる確認・検証しなければなりません。そのために求められるのが「避難訓練」です。消防庁が作成した「旅館・ホテル等における夜間の防火管理体制指導マニュアル」から、明らかにすべき対応事項をピックアップしたので確認してください。

■火災が発生したときの対応事項
1.出火場所の確認
2.現場の確認
3.消防機関への通報
4.初期消火
5.情報伝達
6.避難誘導

廊下に出てきた客を安全な地点まで避難誘導するのが、最終的な対応事項となります。安全な地点の定義は、ホテル・旅館が耐火建築物かそうでないかで異なります。耐火建築物の場合、特別避難階段の附室や竪穴区画の階段室、屋上やベランダで、非耐火建築物は安全な地上が「安全な地点」と定義されています。

同資料は、誘導の方法や限界時間の設定の仕方などが詳細に説明されているため、防火管理者以外のスタッフもいざというときのために確認しておくことをおすすめします。

※出典:消防庁「旅館・ホテル等における夜間の防火管理体制指導マニュアル

ホテル・旅館が行うべき地震の備えと発生時の対応

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高知県が作成した「災害時対応マニュアル旅館・ホテル編」によると、地震が発生した際の対応は、発生直後・沈静時の「第1フェーズ」とそれ以降の「第2フェーズ」に分けられます。それぞれで対応すべき事項について以下でまとめたので確認してください。

地震発生直後の対応

地震が発生して3分以内では、主にスタッフ自身と近くにいる宿泊客の誘導を行います。揺れよりも数秒~数十秒早く警告する「緊急地震速報」が鳴ったら、すぐにスタッフはヘルメットをかぶり机やカウンターなどに隠れ、宿泊客を対応しているスタッフは同様の対応を促します。

地震沈静時の対応

通常の地震の最も揺れが大きい「本震」が収まる10分以内に、施設内の初期対応者を決定します。基本的に初期対応者は、地震発生時に施設内にいるトップの役職者が担います。初期対応者は揺れが収まるとまずフロントスタッフを集めて、行方不明者がいないか確認し、次に宿泊客の人数などを確認します。この時点で重要なのは、宿泊客を必ず施設内に収容し続けること(「帰りたい」などの要望には原則、応じない)、そして基本的に現場にいるスタッフで対応することです。

本格的な対応を開始

上記の確認が取れたら、本格的に宿泊客の安否確認とこれからの対応のアナウンスを実施します。また、同時に施設の安全確認(建物の倒壊の危険性、火災など)を行います。初期対応責任者がスタッフを人員配置し、3人以上スタッフがいる場合はなるべく初期対応責任者は持ち場を離れずに指示に徹することが推奨されています。

このように地震発生による二次被害を防ぐためにも、パニックにならずに冷静に対応する必要があります。そのためには発生時の対応だけでなく、防災管理に則った事前の備えが重要となるでしょう。

※出典:高知県「災害時対応マニュアル旅館・ホテル編

管理者・従業員の立場で災害に備えましょう

防災管理と災害が発生したときの具体的な対応について紹介しました。ただ、これでも準備・対応すべき事項のほんの一部に過ぎません。地震や火事はスタッフや宿泊客に甚大な被害を与える可能性がある災害です。管理者が適切な備えを主導するのはもちろん、従業員やスタッフも日頃から防災意識を高めておく必要があります。まずは職場の防火・防災管理者やいざというときのためのマニュアルの有無を把握し、もしあるのであれば手元に置いてその内容を確認しましょう。

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